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2018.06.24

肥満と糖尿病    矢澤 淳良


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人類は有史以来飢餓の連続で、満腹になるまで食べることが出来るようになったのは、僅か半世紀前以来のことです。

飢餓と戦う長い歴史の中で、生命を維持するためのエネルギーを溜め込むシステムを進化させてきました。

実はそのシステムが、飽食の時代である現代では、あらゆる生活習慣病の原因になっています。肥満も糖尿病も、飢餓を耐え忍ぶためのシステムが飽食の時代となったためにマイナスに作用した結果なのです。

 

インスリンの誤解

血糖とは血液中のブドウ糖のことをいうのですが、消化されるとブドウ糖になる食物を食しますと血糖値が高くなり、エネルギー産生のために細胞が摂り込むと血糖値は下がります。ブドウ糖を筋肉細胞と脂肪細胞に取り込むには、インスリンが必要です。

インスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンですが、脂肪やアミノ酸代謝という重要な機能も持っています。

北里大学分子生物学伊藤道彦准教授は、ラットの実験で胎児にグルコースを投与してもインスリンの分泌が認められませんでしたが、グルコースにアミノ酸のアルギニンとロイシンを加えて投与したところ強いインスリン分泌が認められたそうです。

狩猟民族の欧米人はインスリン分泌量が農耕民族である日本人の2倍と言われますが、長い年月に渡る食習慣の違いで遺伝子発現に差異が生じることを示しています。

 

糖尿病の実態

平成28年、厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によりますと、糖尿病有病者と糖尿病予備軍は、いずれも約1,000万人と推計されています。1960年有病者が10万人当たり20人程度でしたが、飽食の時代に突入した高度経済成長期を経て2000年には10倍に増加しています。

有病率は現在も増え続けており、国民医療費の増加に拍車をかけているのが実態です。

 

脂肪細胞

動物は、生きる為にエネルギーを必要とします。ヒトの場合3大栄養素と呼ばれる炭水化物、脂質、たんぱく質がエネルギー源で、代謝によりブドウ糖が産生され、人体を構成している60~100兆個の細胞内でエネルギーに変換されています。

炭水化物は、ブドウ糖を多く含んでいますので、効率良くエネルギーに変換されますが、多量に貯蔵することが出来ません。そこで人類は、長い進化の過程でエネルギー源を脂肪として脂肪細胞の中に蓄えるシステムを獲得しました。

脂肪細胞は、飢餓時の生命維持に必要なエネルギーを確保しておくための貯蔵庫なのです。

 

大型脂肪細胞

脂肪細胞には、大型と小型の2種類があります。

飢餓に備えてのエネルギー貯蔵庫として機能していた時代は、小型でした。ところが、飽食で脂肪が過剰に生じた場合肝臓や筋肉に脂肪がたまりますとインスリンの働きが悪くなります。それを防ぐ目的で余剰脂肪を蓄える予備タンクとなることにより大型になったようです。

 

アディポサイトカイン

脂肪細胞からは様々なホルモンやホルモン用物質が分泌され、細胞や個体の恒常性を維持するために機能しています。

 

・レプチン

脂肪細胞から分泌され、体内脂肪量のバランスをとる働きをするホルモンです。脂肪が増えますと大量に放出され、脳中枢の視床下部に指令を出し、食欲を抑制してエネルギー消費を亢進させ過剰な脂肪蓄積を防止する働きがあります。

例えば、1000キロカロリー余分に摂取した場合100~200キロカロリーしか脂肪はつかず、1000キロカロリー摂取しなくても失われる脂肪は100~200キロカロリーのみというようにコントロールしています。

この働きは飢餓状態時に脂肪消費をセーブするシステムですが、飽食時大型脂肪細胞ではレプチン抵抗性が生起して機能しなくなるそうです。

 

・アディポネクチン

インスリンの働きを補完する善玉ホルモンです。筋肉や肝臓に働くと糖や脂肪を細胞に取り込んで代謝しATP(エネルギー)を産生させます。

通常運動などでエネルギーを消費し、ATPが分解されてAMPが増えますとAMPキナーゼが活性化されます。すると、糖輸送担体(グルコース・トランスポーター=GLUT)と呼ばれるたんぱく質が細胞膜に移送されたり、脂肪酸の取込みが促されたりします。

アディポネクチンは運動をしなくても筋肉でAMPキナーゼを活性化し、糖の取込み促進、脂肪燃焼の促進をします。結果的に脂肪を減らし、インスリンの機能を改善させます。

 

・PAI-1(plasminogen activator inhibitor-1)

脂肪細胞から分泌され、血液を固まらせる作用があります。肥満時には分泌が増加し、脳血栓や心筋梗塞などのリスクを高めます。

狩猟採集時代ケガが多かったので、血液を凝固させるシステムは重要でした。飢餓の時代獲物をしとめる時は必死になり、ケガをすることも多かったと思われます。また少ない食料を奪い合うために取っ組み合いをする場面も多かったのではないかと想像されます。

大きな傷が出来ても絆創膏でふさいだり、縫い合わせたりすることが出来ず、出血多量で命を落とす場面もあった筈です。

そのような事態を回避するために、素早く止血し出血を最小限に抑える仕組みとして血液の凝固作用が発達したものと考えられます。

 

・TNF‐α(Tumor Necrosis Factor)

腫瘍細胞を壊死させる作用のある物質として発見されたサイトカインです。

大型脂肪細胞から分泌され、インスリン抵抗性を生じさせる作用もあります。

糖尿病発症に関与しますが、小型脂肪細胞からの分泌はわずかです。

インスリン受容体に作用してチロシキナーゼの活性を低下させることにより、糖輸送能を低下させてインスリン抵抗性を誘導します。

脂肪細胞が大きくなりすぎて、破裂してしまうのを防ぐシステムです。即ち、自己を守るためにインスリン抵抗性を生じさせてグルコースの取込みを遮断し、過剰な脂肪の蓄積を防いでいると考えられます。

糖尿病の予防には、大型脂肪細胞を生じさせない食習慣に変更する必要があります。

 

肥満遺伝子と倹約遺伝子

 

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・β3アドレナリン受容体

この受容体は脂肪細胞の細胞膜を7回貫通しており、細胞内に情報を伝達する機能を持っています。

交感神経が優位になりアドレナリン・ノルアドレナリンが分泌されてβ3アドレナリン受容体に結合しますと、脂肪細胞の中で脂肪が分解されてエネルギー消費が亢進する仕組みです。β3アドレナリン受容体にアドレナリン・ノルアドレナリンが結合しても、情報が細胞内に伝達されませんと脂肪は分解されません。指令を受けとっていない脂肪細胞は脂肪をどんどん溜め込むことになります。

飢餓の時代では食物を得る機会が少なかったので、脂肪としてエネルギーを確保しておくシステムが必要でした。飽食の現代ではこのシステムが肥満に直結し、あらゆる生活習慣病の源になっています。

β3アドレナリン受容体の端から64番目のアミノ酸がトリプトファンかアルギニンかの違いで太り易いかそうでないかが決まります。肥満になり易いアルギニン型では、基礎代謝量が100キロカロリー低くなると言われています。同じ食物を食してもアルギニン型の人はトリプトファン型に比べ100キロカロリー太り易いことになります。そこで、アルギニン型のβ3アドレナリン受容体は、肥満遺伝子と呼ばれるようになりました。

飢餓の時代では、この遺伝子が生存に欠かせない重要な存在でした。

日本人の約35%がこの遺伝子を持っていますが、欧米人の約15%もこの遺伝子を持っています。すなわち、日本人は欧米人に比べ太り易い体質であると言えます。

 

・PPARγ

これは脂肪細胞の前駆細胞核内に存在する転写因子で、DNAのプロモータ部分に結合することにより脂肪細胞へ分化する遺伝子を発現させます。すなわちPPARγは、脂肪細胞を作る働きをしています。

PPARγが正常ですと高脂肪食を摂取した場合、エネルギー消費を促進するレプチンの分泌を抑えて効率よく脂肪を溜め込み大型脂肪細胞にする仕組みであることが解明されました。レプチンの項目に記載しましたレプチン抵抗性は、この遺伝子の寄与によるというわけです。

この研究により、PPARγは「倹約遺伝子」であるとの提唱がなされました。

ところが、高脂肪食を食した時に、太る人と太らない人がいます。それは、PPARγの活性力の違いによります。活性の高い人は肥満や糖尿病になり易く、低い人はなりません。その違いは、遺伝子のわずかな違いであることが解明されました。すなわち、PPARγ遺伝子の12番目のアミノ酸がプロリンの場合は活性が高く、アラニンの場合は活性が低いことが分かりました。

日本人の96%はプロリン型ですが、4%はアラニン型です。欧米人は80%がプロリン型で20%がアラニン型です。

 

日本人は太り易い

以上見てきたように日本人の35%は肥満遺伝子のβ3アドレナリン受容体が肥満になり易いいアルギニン型で、PPARγが高脂肪食化で脂肪を効率よく貯めるプロリン型の倹約遺伝子を96%の人が持っています。

欧米人のアルギニン型15%、プロリン型80%に比べますと、肥満になり易いことと高脂肪食下では糖尿病になり易いことが良く理解できると思います。

これらの研究は、東京大学の大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授 門脇 孝博士によるものですが、農耕民族である日本人には高脂肪食が不向きであることを物語っていると思います。

 

肥満防止と酵素食

肥満予防には、摂取エネルギーと消費エネルギーのバランスを考えた食事を摂るよう心掛ける必要があります。消化・吸収の良い食物を少量、十分に咀嚼して楽しみながらゆっくり食事する習慣を心掛けると良いでしょう。

腹8分目が良いか6分目が良いかは、個体差によります。地球上の人口は約80億と推計されていますので、80億分の1が自分であることを思い起こしてください。自分の身体内の状況は、自分にしか分かりません。自分に合った食事の量は、自分で試行錯誤し、自分の脂肪細胞が大型化しない食事量を見出す必要があります。人任せにしないことが肝要です。

高脂肪食は美味しい場合が多く、好む人も多いでしょう。好物を我慢してQOLを落す必要はありません。高脂肪食が肥満と糖尿病の原因になるメカニズムをよく理解すれば、自分がどのくらいの頻度で好物を摂取しても問題が起こらないかを知ることが出来るでしょう。

食事の基本は、酵素食(プラントベース・ホールフード・ローフードの食事)であると考えてください。酵素食を中心に日々の食事を組み立てていれば、月に1~2回豪華な食事を楽しんでも健康に悪影響を与えることは無いと私は考えています。

私の妻は、19年前難病である多発性硬化症を発症し、7年間入退院を繰り返していました。お医者様方には、原因不明で一生完治することがなく間もなく車椅子が必要になり寝たきりになると宣告されました。治療は、薬の投与と1日おきの自己注射でしたが、病状は悪化の一途を辿りました。

食事療法としての酵素食に変更すると間もなく病状は回復し、3年後のMRA検査で治癒が確認されました。完治して11年が経過しましたが、自動車の運転も出来るようになり、国内旅行は勿論2年前には一家でイタリア旅行をすることも出来ました。

通常の家での食事は酵素食が中心ですが、外出した折には好物の肉類や和菓子類を少量含んだ食事も楽しそうに食しています。

 

おわりに

人は、生存のためにエネルギーを必要とします。長い飢餓時代、エネルギーを確保するために進化の過程を経て様々なシステムを獲得してきました。ところが半世紀前ごろからの急激な経済発展に伴い、飽食の時代が到来しました。

人体内の機能は長い飢餓時代に構築されたままですので、急激な飽食時代には対応できないことを理解する必要があります。

健康寿命を楽しみながら全うして、そのノウハウを子孫に引き継いで行く参考にしていただければ有り難いと思います。

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