私たちは、毎日何らかのストレスを感じながら生活しています。普段の平穏な生活の中に於いては負担にならない、つまり、気になるようなことのない軽微なストレスがほとんどです。ところが稀に、頭の一部分を常に占拠して離れないストレスに遭遇します。この状態が長引きますと、様々な健康上の不具合が生じる可能性があるのです。
カゼインとは、牛乳成分中の80%以上を占めるたんぱく質です。仔牛を短期間に成長させることのできる必須アミノ酸を十分に含んでいます。しかし、人が過剰に摂取しますと、有害となる可能性がある物質です。
私の妻は1999年10月に難病の「多発性硬化症」を発症し、7年間に亘る闘病生活を余儀なくされました。医師達からは原因不明で生涯完治することは無く、間もなく車椅子が必要になり寝たきりの状態になると宣告を受けました。
途方に暮れながら暗い日々を過ごしていた或る日、幸運にもアメリカの医師エドワード・ハウエル博士が提唱された「酵素栄養学」に出会ったのです。本を購入し繰り返し精読している中で将来にかすかな光を見出し、この学説に基づく代替療法に挑戦することを決断したのです。
治療法は極めて単純で、断食に続く酵素食(プラントベース・ホールフード・ローフード)を中心とした食事療法です。断食開始の前日に、処方されていた薬の服用と医師の指示に基づく1日おきの自己注射をすべて中止し、それまでの概念とは180度異なる療法を開始しました。その結果、約4か月経過した時点で発病前の健康体を取り戻し、3年後のMRI検査では治癒が確認されました。現在病状回復後ほぼ10年が経過しましたが、車の運転も出来るようになり、以前にも増して健康で楽しい毎日を送っています。
今回は最近妻が受けた血液検査のデータを基に、ストレスが身体に与える影響についてなど、興味深い生体の反応について考察させていただきたいと思います。
し、腰痛を訴えました。
また、町主催の健康教室で血圧上昇を指摘され体操に参加させてもらうことが出来なかったことなどが重なりました。
MRI検査の結果、脊髄神経や骨の異常は認められませんでしたが、血圧の自己測定ではしばしば高い値が記録されました。高血圧症で観察されるような自覚症状は特に現れておりませんでしたが、本人の希望により受診して血液検査と心臓超音波検査を受けました。
検査結果を見ますと異常は全く見られませんが、いくつかの興味ある数値が示されています。
「老人はもっと肉類を多食すべき」は正しいか?
検査項目の最上段に示されている「TP」は、総蛋白量ですが極めて良い値です。日々酵素食で、肉類は半年に1度程度また魚類も2~3ヶ月に1度極少量(50g~100g)食します。
肝臓で産生されるALB(アルブミン;たんぱく質)、LDH,ALP,LAP,CHE(代謝酵素;たんぱく質)の値も正常範囲で、肝機能に異常は認められません。また、肉類をはじめとする動物性たんぱく質を10年以上ほとんど摂取していないにも拘わらず、十分なたんぱく質が確保できていることを物語っています。即ちほとんど肉類を食さない野菜中心の食生活で、身体に必要なたんぱく質の原料であるアミノ酸は十分に確保できていることが確認できます。
1つだけ、基準値を超えている検査項目があります。それは、ノルアドレナリンです。心配ごとや不安を抱えますとストレスになり、交感神経が優位になります。ストレッサーに対抗して抗ストレスホルモンと呼ばれますアドレナリン、ノルアドレナリン、グルココルチコイドが分泌され様々な反応が現れます。その1つが血圧の上昇です。
「高血圧が続いたらどうしよう。脳障害、心臓障害が生じるのではないか。」等の心配や不安がノルアドレナリンの分泌を誘発し、血圧を上昇させたものと考えられます。
不安感とストレス反応
同じような生活習慣食習慣であっても、病気を罹患する人としない人がいます。病気に対する抵抗力に差が生じる要因の1つは思考性癖であるとの説があります。
怒り、恐れ、不満、恨み、葛藤など、ネガティブな感情を抱くことが多いとマイナス刺激となりストレス反応が生じます。また、答えの出ない事柄に疑問を抱きその考えに固執して思考をめぐらすと、堂々めぐりとなり解決の道を見出すことが出来ず、不安感が生じます。この不安感がストレス反応を生じさせ、病気発症に直結すると考えられます。
反対に、愛、感謝、賞賛などの感情は、ストレス反応を生じさせることがなく、ストレスを消去させる感情です。ストレスを感じた時にはポジティブな感情を想起させる行動を心掛けることが肝要です。具体的には、自分の好きな事柄に集中するように心がけ、楽しむことが必要です。また「笑い」は、全てのネガティブな感情を消去させると言われます。
抗ストレスホルモンと免疫
新潟大学の教授を務められた安保徹医学博士の理論によりますと、自律神経と密接な関係にある3つの抗ストレスホルモンは、分泌されると拮抗している交感神経と副交感神経のバランスを交感神経優位な方向に傾かせるとのことです。その結果細菌や真菌などを貪食して殺菌する免疫系の顆粒球が増え、ウイルスなどの小さな異物や腫瘍細胞を排除する役割を持つリンパ球は減少すると述べておられます。
ストレスとがん
アメリカコーネル大学のコリン・キャンベル博士は研究の結果がん発症はイニシエーターの1つとしてアフラトキシンがあり、プロモーターのカゼインが総摂取カロリーの20%を超えた場合発症率は100%で、5%以下の場合は0%であると発表されました。
ところが最近、マクロビオテックで動物性たんぱく質を全く含まない食事をしている人ががんを発症した例が紹介されたのです。キャンベル博士の研究とは真逆であるとの認識を持たれた人も多いのではないかと思われますが、実は長期に亘るストレスにより発生する過剰な活性酸素は、がんのプロモーターであると考えられるのです。
動物性たんぱく質の多食は消化不良の原因となり、消化されないたんぱく質は吸収されずに大腸に達しますそこ。そこで悪玉と呼ばれる常在細菌によって分解され、インドール、スカトール、硫化水素、アミンなどの毒素が発生すると言われます。毒素が血管を巡り肝臓で無毒化される時には、大量の活性酸素が発生することが明らかになっています。
オートファジー
2016年度ノーベル医学・生理学賞を受賞された大隅良典博士の研究は、細胞のおけるオートファジー機能の解明でした。
人体は60兆から100兆個の細胞で構成されていると推定されていますが、1つの細胞に約80億個のたんぱく分子が存在し、生命維持のために毎秒数万件の化学反応が遂行されていると言われています。化学反応を滞ることなく進行させる条件として、細胞内に機能を失ったたんぱく質や劣化したたんぱく質など反応を阻害する邪魔な分子が存在しないことが必要です。
元来オートファジーは、細胞が飢餓に耐える為に、生命誕生以来40億年の進化の過程で獲得した機能であったそうです。
「オート」はギリシャ語で「自分」を表し、ファジーは「食べる」の意味で、日本語では「自食作用」と訳されています。
飢餓で栄養補給が閉ざされた時、多細胞生物は自分のたんぱく質を分解して必要なエネルギーを確保し、化学反応に必須である代謝酵素などたんぱく質の材料としてアミノ酸を準備する為に獲得した機能であると考えられています。
飽食の時代となった現代ではこの機能の存在は、細胞内のクリーンアップに役立つことになったのです。
オートファジー機能の抑制
細胞内のミトコンドリアでエネルギーを生産する際には酸素が不可欠ですが、その過程で2~3%の活性酸素が産生されると言われます。また、何らかの影響によりミトコンドリアが劣化しますと大量の活性酸素が発生して多くのたんぱく質が変性します。その結果細胞内に不要物質が充満し、細胞が機能不全に陥ります。この状況を打開する機能としてオートファジー機能は極めて有効なのですが、この機能を抑制する要因が2つあります。
1つは、アミノ酸の存在です。動物性たんぱく質の多食などで細胞内に必要以上のアミノ酸が存在すれば、わざわざたんぱく質を分解してアミノ酸を確保する必要がありません。この場合細胞は機能不全に陥り細胞死組織破壊が起こり、重篤な健康障害、病気発症へと発展する可能性が大きくなると考えられます。
2つ目は、インスリンの存在です。精製された穀物の多食や蔗糖の多量摂取は、血糖値を必要以上に上昇させます。また、長期に亘ってストレスに曝され交感神経優位が続きますとストレスホルモンであるグルココルチコイドの分泌により血糖値が上昇し、結果としてインスリンの分泌も多くなると考えられます。インスリンはたんぱく質の合成を促す働きもありますので、オートファジーと競合すると考えられるのです。
カゼインとストレスはがん促進物質
ストレスの長期に亘る存在は、インスリンの分泌により細胞内クリーンアップが抑制され、細胞の劣化を招きます。即ち、カゼインが「がん」のプロモーターであると同様なメカニズムでストレスも「がん」のプロモーターになると考えて良いのではないかと思っています。
まとめ
約半世紀前、「腸造血説」を唱えられた千島喜久雄博士は「健康の要諦は、氣・血・動の調和である。」と述べておられます。
自立した健康な生涯を送るカギは、プラントベース・ホールフード・ローフードの酵素食を中心にした食生活、明るく・楽しく・元気良く無理のない運動を取り入れた適切な生活習慣を身に着けることであると考えています。